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大阪地方裁判所 昭和38年(ワ)272号 判決

原告 三亜興業株式会社

被告 国 外一名

代理人 坂上健一 外二名

主文

被告らは、原告に対し、各自二、〇〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和三七年一一月二一日から完済に至るまで年五分の金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、被告両名の連帯負担とする。

この判決は、六〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮に執行できる。

事  実〈省略〉

理由

一、本件物件が競売されるまでの経過などについて

(証拠省略)を綜合すると次のような事実が認められる。証人河野武夫、湊拡将、関専紀、菊田昌人、高市敏雄の各証言のうち、この認定に反する部分は措信しがたく、他に右認定をくつがえすに足る証拠はない。

(一)  原告は、訴外石井鉄工所から三、〇〇〇、〇〇〇円で買い受けて所有権を取得した本件物件を、同三七年五月一八日小西鉄工所に売り渡す契約を締結しその契約書(証拠省略)を作成した上同月二八日これを引き渡した。小西鉄工所との売買契約の内容は代金三、二〇〇、〇〇〇円のところ分割払のため利息を加えて)三、三一七、九〇〇円とし、右代金を同年七月三一日から同三八年四月三〇日まで一二回に分割して支払う、右代金完済まで所有権を留保するとの特約付であつた(証拠省略)。原告は右代金の支払いを受けていなく、本件物件の所有権は原告に属していた。

(二)  小西鉄工所は満期の手形を落すことができなくなつたので、債権者に通知して同三七年八月二七日午後八時に第一回の債権者会議を開いた。同日までは不渡手形を出すようになつていたことを小西鉄工所の関係者以外の者はほとんど知らなかつた。この席上小西鉄工所の小西社長と木村総務部長の二人は、本件物件は原告所有で代金を支払つていないから原告に返さなければならない旨を説明した。この会議には被告会社から番頭格の湊拡将が代理人として出席していた。

(三)  小西鉄工所の相当数の労働組合員は、工員の給料、退職金の受領を確保するため、倒産後一箇月余の間同社の工場に寝泊りしていて、同工場備付の機械器具類は事実上その支配下にあつた。

(四)  被告会社は、小西鉄工所に対し八一九、五二〇円の債権を有するとして大阪地方裁判所同三七年(ヨ)第二二五八号仮差押決定を得て大阪地方裁判所執行吏田渕博に委任して同執行吏の代理高市敏雄により同三七年九月一日小西鉄工所の占有する有体動産に対し被告会社の仮差押えの執行をした。この動産仮差押調書(甲四号証)によれば執行の目的物のうちに本件物件が含まれており、これが見積代価を六〇、〇〇〇円と評価していて、執行吏占有の方法は票目と記載されている。

(五)  小西鉄工所は、倒産直後原告に本件物件を引き取るように要請していたが、当時工場を占拠していた小西鉄工所の労働組合との話合いがつかなかつたので、原告は小西鉄工所を債務者として本件物件につき大阪地方裁判所に執行吏保管、占有移転禁止の仮処分命令を申請し、同三七年九月五日仮処分決定(同三七年(ヨ)第二、三〇八号)を得て同月六日その執行をした(証拠省略)。右執行は委任を受けた執行吏吉本忠雄により、小西鉄工所事務所東側の壁に本件物件を明記した仮処分の公示書を貼布し、本件物件にも仮処分物件である旨を記載した約三〇糎四方の厚板紙の札を針金で結びつける方法でなされた。原告はその頃小西鉄工所を被告として大阪地方裁判所に所有権に基づく本件物件引渡し請求の訴えを提起し、同年一二月二一日勝訴の判決(同年(ワ)四一〇五号)を受けた(証拠省略)。

(六)  右仮処分執行後に、小西鉄工所の柳瀬某という職員から電話で本件物件が被告会社によつて仮差押えされていた旨の連絡があつたので、原告の産業機械部業務課員戸崎久は小西鉄工所に行つて調査したが本件物件には仮差押え票目も公示もなく、小西鉄工所の労働組合員に尋ねても判らなかつた。そこで、戸崎は被告会社に当時の代表取締役関専紀を尋ね、原告と小西鉄工所との間の本件物件売買契約書(乙一号証)の写を見せた上で、債権者会議の席上で本件物件が原告の所有であることが確認されたことでもあるからこれが差押えを解除することを依頼したところ、関は仮差押の執行が本件物件になされているかどうか判らないので弁護士と相談しておくと回答した。関は川見弁護士にこのことを相談したところ、同弁護士は「もし本件物件が原告の所有ということが本当であれば止めるようにしてくるはずだから、こちらの方でそのようにしておく」旨を答えた。その後、被告会社の仮差押えおよび差押えの執行解除の手続はとられなかつた。

(七)  公庫は、同年九月二二日小西鉄工所に対する債務名義に基づき、本件物件を含む有体動産(被告会社の仮差押物件)に対し差押えをした。右手続をする前の同月二〇日執行吏小喜多六三郎代理西川正男は右債務名義に基づく有体動産の差押えのため小西鉄工所工場に赴いたが、その際出会つた同会社工員片山清則から本件物件の仮処分の公示書を示されて、これを取り調べることとする旨を右差押調書に記載した。その直後頃、本件物件の仮処分の執行記録をその執行吏から借り出して右差押えの執行記録にひもでしばりつけるなどの方法により関係記録としてこれと一括して保管することとなつた。すなわち本件物件の強制執行を担当する執行吏等は保証金額を記載した仮処分決定の正本がつづられている右仮処分の執行記録をいつでも見ることができる状態となつた。

(八)  訴外玉出社会保険事務所長は、小西鉄工所に対する滞納金額徴収のため同月二五日に本件物件を含む右仮差押えの目的物を差押えた(証拠省略)。

(九)  執行吏小喜多六三郎の代理高市敏雄は、同年一〇月三日差押物件を点検した際に吉本執行吏のなした仮処分物件が前記仮差押物件中の本件物件と同一であることを小西鉄工所の従業員片山清則から聞き、点検調書にその旨を記載した(証拠省略)。

(一〇)  原告は同月四日公庫と定出社会保険事務所に対し差押物件中に原告所有の本件物件が入つており仮処分もしているから差押えを解除せられたい旨の通知を内容証明郵便で発信し、右郵便は同月五日それぞれ到達した(甲九号証の一と二、同一一号証)。そして原告は同月八日小喜多執行吏の所属する大阪地方裁判所北執行吏役場にも右同様及び右差押事件につき原告が配当要求の債権中には本件物件の代金が入つていない旨の通知を発し、翌九日到達した(甲一〇号証の一、二)。執行吏役場ではこの通知を本件強制執行記録に編綴した。原告は同月一日右公庫の強制執行に関し、合計六、二三七、七三一円の機械売買代金につき配当要求の申立てをしているが、このうちには本件物件の売買代金が含まれていなかつた(甲一八号証の一ないし六)。また被告会社に対しても同月八日被告会社仮差押物件中に原告所有の本件物件が含まれているから解除せられたく、もし競売処分になれば損害賠償の請求をすることになる旨の通知を発し、翌九日到達した(証拠省略)。

(一一)  訴外西成税務署長は、小西鉄工所に対する滞納金額徴収のため同月九日本件物件を含む有体動産を差し押えた上、これを小喜多執行吏に通知して国税徴収法施行規則二九条の交付要求をした(甲二〇号証)。

(十二)  被告会社は、小西鉄工所に対する大阪簡易裁判所同年(ロ)第一、二八九号仮執行宣言付支払命令に基づき同月一〇日前記公庫差押中の本件物件を含む有体動産に対し照査手続をした(証拠省略)。

(一三)  戸崎は、公庫、西成税務署、玉出社会保険事務所にも、原告と小西鉄工所との間の本件物件の売買契約書の写を示してその差押えの解放を依頼した。

(十四)  玉出社会保険事務所長は、同月一八日に原告および執行吏小喜多六三郎に対し「同月一三日本件物件が小西鉄工所のものではないことを確認した」という理由で前記(八)の差押中本件物件の差押えを解除する旨を明記した差押解除書を送付し、執行吏に対するものは執行記録につづり込まれた(証拠省略)。

(十五)  西成税務署長は、同月三〇日原告に対しその再調査請求につき「昭和三七年五月二三日附売買契約書並びに再調査請求書内容の処置については理由があるものと認め」前記(一一)の差押中本件物件の差押処分を取消す決定をした旨通知した(証拠省略)。

(一六)  公庫は、同年一一月一五日小喜多執行吏の所属する大阪地方裁判所執行吏北役場に対し、「前記(七)の差押中本件物件については動産強制執行を解放せられたい」旨の差押一部解放申請書を提出し、同役場はこれを執行記録につづり込むとともに、同日右申請書の謄本を債務者小西鉄工所に送達した(証拠省略)。

(一七)  戸崎は、右各差押解除の都度に被告会社に右通知書を持参してその旨を連絡していた。

(一八)  本件物件は、小喜多執行吏により、被告会社の前記(十二)の債務名義による強制執行として同月二一日に競売され、訴外島津定一はこれを代金一〇〇、〇〇〇円で競落し(証拠省略)、その後いずれかに搬出したので、原告はその所有権を失うに至つた(このことは当事者間に争いがない。)競売に際し小喜多執行吏は、立ち会つていた公庫の代理人田口政邦から、特に本件物件を競売することの可否について、注意を喚起されたが、同執行吏は書類を調べた上で、異議が出ていないとして競売を実行した。

(一九)  本件物件は、一箇月位使用されていたが、まだ新しい機械で同三七年一一月当時の価格は少くとも二、〇〇〇、〇〇〇円を下らないものであつた。右のとおり原告は競売により本件物件の所有権を失い、当時の相当価額の損害を蒙つたものである。

二、仮差押えの効力について

(一)  債務者の保管に任せてする有体動産の仮差押えの執行は、封印その他の方法をもつて仮差押えを明白にするときに限り効力を有するものであることは、民訴七五〇条一項、五六六条二項により明らかである。これは債務者の保管に任せる場合は執行吏の保管に移す場合に比し、執行の事実が外部から認識しがたいからであるから、右封印等は何人も容易にそれが仮差押中であることを分ることができるものであるとともに、通常の差押期間中は自然に破滅またははく離しない程度の持続性のあるものでなければならない。従つて封印等を欠くかまたは施された封印等が人為を加えないのに簡単に自然にはげ落ちて目的物から離脱するようなものであるときは、その仮差押えの執行は効力を生じない。そして執行調書の記載は一般に執行の効力に影響を及ぼさないから、このような執行方法上のかしは右仮差押調書の「目的物に標目を施こした」旨の記載を以てしては補正せられるものではない。

(二)  (証拠省略)仮差押調書によると、被告会社による仮差押えの執行調書には、本件物件に対する執行方法として「仮差押物は悉皆これを占有し、標目を施こし債権者の承諾によつて債務者の保管に任せた」旨の記載がなされていることが認められる。

しかし、証人菊田昌人は「スクラツプについては標目を貼るところがないので公示した。右仮差押調書がどこで作られたか知らない。私は執行現場で書類に署名した」旨の証言をしているのに右調書には、スクラツプ一九鋳鉄製品、半製品取交ぜ五トン)にも標目票を施こしたことになつていて、更に「この調書及別紙目録を関係人に閲覧させた処承諾したから左に署名捺印させた」との印刷文の次に、「債務者従業員某男は署名押印せず」。「債権者復代理人菊田昌人立会した」。との記載があつて、菊田の署名捺印がなされていないのに民訴五四〇条三項に反してその理由の記載をしていないことが、甲四号証により明らかである。(菊田は債権者代理人として立会していた者であつて、右のとおり執行現場で書類に署名したと証言している位であるから、執行調書に同人の署名捺印が受けられないようなことがないと思われる。しかるに右調書には作成者である執行吏代理の高市敏雄の署名捺印が存在しない。このことは、右調書が原告主張のような経過で作成せられたことを疑わしめるものであると。)すればこのようなずさんな調書の記載によつては本件物件に標目票が施こされていたことを認めることができない。

また証人菊田昌人、同高市敏雄の本件物件に標目票を施こした旨の証言も、証人河野武夫の「同三七年九月一日の被告の仮差押執行のあつたときは、小西鉄工所の幹部は工場にいなく、営業部長であつた河野武夫がこのことを知り直ちに工場に戻つて調査をしたときには、本件物件には標目票が貼られていなく、本件物件を記載した仮差押えの公示書もなかつた」旨の証言と対比するとたやすく信用できない。むしろ、(証拠省略)によると被告会社の仮差押えの五日後である同月六日に原告の仮処分の執行をしたときには本件物件に施こされた標目票その他仮差押えを明示する方法が存在なしかつた事実が認められるので、この事実と右証人河野の証言を合わせて考えると、被告の仮差押えの執行に際して本件物件に標目票が施こされていなかつたものと考えられるのである。

(三)  (証拠省略)によると他の執行吏(代理)による同一工場内の機械に対する原告の仮処分および公庫の差押えの執行については標目票の方法によらないでいずれも公示の方法によつていることが認められる。そして右証人菊田は「機械の全部に仮差押えの標目票を貼つたということは、機械が油だらけでつばをつけて貼つてもすぐ離れるので、乾いたところを捜して貼つた」旨の証言をしており、右証人高市は「第八号物件のボーリングにも標目票を貼つた、標目票を貼る場合、乾燥した材木などは離れることはないが、油のついている機械は標目票が離れることがあるかも知れない」旨の証言をしている。これらを合わせて考えると本件物件は標目票紙をのりづけすることが困難で、一応附着しても直ぐはがれてしまうような油のついた金属性の機械であつて、差押えの事実を明白にする方法として標目票によることが不適当であつたことが明らかである。このことと、前記認定の被告会社の仮差押えの直後に既に本件物件に標目票がなかつた事実を合わせて考えると被告会社の仮差押えの執行に際し標目票紙を貼つたことが事実とすれば、その附着が不完全であつたために執行後間もなく自然にはがれてしまつたものと認めなければならない。

差押えが効力を生じたときは、その後に封印標目が執行吏の意思に基づかないで除去されても、差押えの効力が消滅しないことは勿論である。しかしはじめから標目票によることが不適当な油のついた金属性の機械に不完全な標目票を施したため、その直後、自然かつ簡単にはく離したような場合は、完全に施こされた封印標目等が除去された場合と異なり、執行のはじめから差押えが効力を生じないものと解すべきである。

(四)  被告会社の仮差押えの執行は、右認定のとおりそのことを明白にするに足る適切有効な方法を欠くから無効といわなければならない。結局本件においては原告の仮処分は有効であつたが、被告会社の仮差押えは無効であつたから、被告ら主張の仮差押えと仮処分の場合の問題が生ずる余地はない。(なお、取寄せにかかる仮差押執行記録及び支払命令による差押執行記録によると、被告会社の仮差押えの被保全権利は同三七年八月ないし一一月の各二八日満期の四通の約束手形金合計八一九、五二〇円の債権であり、支払命令の請求の目的たる債権は同年一月二四日ないし八月六日の間の売掛代金一、七二六、七一五円であつて、両者は別個の債権であることも明らかである。)原告の仮処分中の原告所有の本件物件が、(仮差押えの本執行としてではなく、仮処分執行後の公庫の差押に照査した)、被告の支払命令に基づく強制執行として競売せられたことになるわけである。

三、不法行為の成否について

(一)  本件強制執行は、第三者である原告所有の本件物件に対して行われた執行であることは前認定の事実関係から明らかである。よつて、右執行により原告が本件物件の所有権を失つたことにつき、被告会社の代表者及び執行吏に故意過失があつたか否かが問題となる。

(二)  本件物件は鉄工所に通常備え付けられてあると言える機械であつて、これが執行債務者小西鉄工所の工場に備えつけられてあつたのであるから、一応同鉄工所の所有に属するものと推定され、原告からは異議の訴えも執行停止の申請もなされていないのであるから、これだけを見ればこれが執行につき過失がなかつたということもできる。しかし、本件物件に対しては前記のとおり各差押に先立つて原告の占有移転禁止の仮処分が執行されていたのであつて、前記認定の事実関係の下においては、占有の外観上からも、本件物件は小西鉄工所以外の者の権利の対象となつていることが明らかであつたものと考えられる。

(被告会社関係)

(三)  本件においては、原告は、戸崎を通じて被告会社の当時の代表取締役関に対して前記本件物件の売買契約書の写を示し、且つ債権者会議の席上小西鉄工所側では原告の所有であることを公表していることを話して、差押えの解放を求めているのである。被告会社と同様の立場にあつて、本件物件のみにつき差押えを解除した玉出社会保険事務所長、公庫、西成税務署長の例をみるまでもなく、前記認定の事実の下においては取引通念上本件物件の所有権が小西鉄工所にあると信じるのは不自然であつた。

(四)  (証拠省略)によれば被告会社の当時の代表取締役であつた同人は、たとえ本件物件が原告の所有であつたとしても執行停止決定がない限り、競売しようと考えていたことが窺われるのである。

本件各差押えに先立つ債権者集会において小西鉄工所の責任者から原告の所有であることが公表せられており、仮処分が執行せられていた本件物件であり、これに関する所有権留保の前記売買契約書の写の提示を受け、また被告会社と同様に多数の動産を差押えていた公庫、税務署、社会保険事務所が、いずれも差押動産中の本件物件のみについて小西鉄工所の所有に属さないものとして執行解放の手続をしていて、被告会社にこれらの連絡がなされていたことは前記認定のとおりである。このような状態の下においては、原告が執行に対する異議の訴えを提起し、又は執行停止決定がなされていないからといつて、小西鉄工所に対する債務名義に基づき原告所有の本件物件を競売することは許されないものというべく、被告会社の代表者としては右執行を解放するか、又は競売を延期する手続を取つて所有権の帰属について慎重な調査をする義務があつたものである。しかるに関は原告の要請にも拘らず何らの処置に及ばなかつたため本件物件が競売せられて、原告のこれに対する所有権を失わしめたものである。

(五)  右のとおり、関は被告会社の代表取締役の職務を行うにつき、過失により原告に損害を蒙らしめたものであるから、商法二六一条三項七八条二項民法四四条一項七〇九条により、被告会社は、原告に対し右損害を賠償する義務があるものといわなければならない。

(執行吏)

(六)  執行吏小喜多六三郎は、本件競売前に、執行記録に編綴してある原告の内容証明郵便による本件物件が原告の所有であり仮処分の執行がしてある旨の通知、原告の仮処分の執行記録、玉出社会保険事務所長が同三七年一〇月一八日同執行吏あてに送付した本件物件が小西鉄工所のものでないことを確認したという理由を明記した本件物件のみの差押解除書および公庫の本件物件だけについて動産強制執行を解放してもらいたい旨の申請書を見ること及び本件物件によつて右仮処分執行の明示のあることの調査ができた。競売にあたり公庫の代理人から同執行吏に対し原告会社の本件物件を競売することの可否につき注意を喚起せられていることは前記認定のとおりである。

(七)  右のとおり、本件物件は占有の外観上からも小西鉄工所以外の者の権利の対象となつていることが明らかであつた。前記認定の事実の下においては、執行吏としては本件物件を競売することによつて第三者の権利を失わせる虞れあることにつき強い疑いを持つべきが当然であつて、競売を中止して、被告会社に対し右事情を説明して本件物件の権利関係を調査して執行の続行につき再考を促がすと共に、原告に対しても、執行停止につき適切なる対策を採る機会を与えるべき注意義務があつたものと認められる。しかるに小喜多執行吏は右注意義務に違反して、単に異議の訴えが提起されていないとか民訴五五〇条の書面が出ていないというだけで漫然と原告の仮処分執行中の本件物件を競売してしまつたのであるから、違法であつて、国家賠償法一条の過失によつて他人に損害を加えた場合にあたると言わねばならない。

四、過失相殺について

被告会社は、原告が本件のような場合第三者異議の訴えを起こし執行停止命令をとらなければならない義務があつたと主張するが、必ずしもそうしなければならなかつたと謂うことはできない。原告は各差押えに先立つて占有移転禁止の仮処分の執行を受けていたことは前記認定のとおりであり、また、原告が本件競売を阻止するためにとつた方法が有効適切であつたことは差押解除をした他の三債権者の例によつて明らかである。

右諸事情を考えると、本件では過失相殺を必要としないものと認める。

五、損害額および被告両名の責任関係について

さきに認定したとおり、競売当時の本件物件の価額は二、〇〇〇、〇〇〇円を下らぬものであり、本件競売の結果原告が同三七年一一月二一日に本件物件の所有権を失つたことは当時者間に争いがないから、右価額が原告の受けた損害額であつて、各被告は右損害額に同日以降の民事法定利率年五分の割合の金員を付して支払う義務がある。

右の損害は、さきに認定した事実によれば、被告会社代表者と執行吏小喜多六三郎の行為がそれぞれ損害発生の結果に対して因果関係がありかつ各行為は関連共同していると認められる。そうすると被告らは民法七一九条により原告に対し右損害を連帯して賠償する義務があるものである。

六、(結論)

よつて原告の本訴請求は、被告両名に対し各自二、〇〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和三七年一一月二一日から完済まで民事法定利率年五分の割合による金員の支払いを求める限度においては理由があるからこれを認容すべく、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条九二条九三条を、仮執行の宣言につき同一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎 木村輝武 白井皓喜)

物件目録(省略)

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